良心的なペットショップが多いとは思うんですが、

まれに怖いトコロもあるらしい…という話を聞いて、

恐怖のあまり妄想が膨らんでしまいました。


商(あきな)いの方程式

 

 ああ、あんたがあの密航者じゃな。よかったのう、船外投棄されずに済んで。なにせ、いわくつきの船じゃからな。いつもなら有無を言わさず外に放り出すところじゃが、どうせなら仕事の手伝いをさせて仲間にしたほうがいいじゃろう、ということになったのじゃ。いろいろと不満はあるかも知れんが、ここはひとつ、おとなしく仲間になったほうが身のためじゃぞ。なにせ外は真空の宇宙空間じゃからな。

 まあまあ座りなさい。ちょっと散らかっておるが適当に物をよけて。さあ、とりあえずは一杯。え? 仕事中じゃと? なんとまあ生まじめな。なに気にすることはない。むずかしい仕事ではなし、老人でも酔っ払いでもできる仕事じゃ。ただ、やることが、やたらと多いだけじゃ。

 それにしても助かった助かった。いやいろいろと忙しゅうてのう、年寄りには、いささか厳しゅうて、手伝いできるヤツを雇ってくれるよう、ずっと前から船長に頼んではおったのじゃ。しかしほれ、やはりこの誰でもいいというわけにはいかんし、気をつけんと星間警察の囮捜査に引っかかってしまうこともあるんでなあ。まえにもウッカリ囮捜査員を雇ってしもうて、あやうく通報されるところじゃった。もちろん船外に放り出して宇宙の藻屑と消えてもらったがのう。うははははははははははははははははははははははははははは。

 ところで、なんでまた密航なんぞ? ええと、前回の碇泊地は、たしかエィミソールじゃったが、そこのお人か? へ? 出身はツガ・メイ? そこが不景気でエィミソールへ出稼ぎに。ははあ馬鹿じゃのう。どちらも地球からずいぶん離れた辺境星じゃ。不景気さに変わりはなかろうに。はあ、それで密航を。まさかこんな船とは思わなんだ? いやいや、目の付けどころは悪うないぞ。この船は地球に行くこともあるのでな。

 そうじゃな。地球に行くのは年に二度ほどになるかのう。もちろん商品の仕入れにじゃ。この船をなんじゃと思うておる。星間輸出入業を営んでおるのじゃぞ。

 辺境の星ではな、地球産の金魚や小鳥が人気があるのじゃ。いま各殖民星に住んでおる裕福な老人たちは、もとはといえば最初の宇宙開拓ブーム時に地球を離れた者がほとんどでな。若いもんには分からんじゃろうが、郷愁を誘うようなもの、つまり地球の匂いのするものを好むのじゃ。それにな、殖民星で繁殖させた安物より、高価な地球産を購入できるということが、いわゆる一種のステイタスとなるんじゃから、高ければ高いほど喜ばれるし、おまけにそういう客は、もともと好きで飼っとるわけではないから、死ぬとすぐ次の商品を買うてくれるのじゃ。な、上得意さまさまというワケじゃ。

 もっとも上得意に贔屓にしてもらうためにはな、こちらも、あれこれと頭を使わねばならん。たとえば金魚。長生きされると次を買うてもらえず商売にならんじゃろうが。じゃから売りつける前に、さんざん追い回して弱らせておかんとならんのじゃ。

 なに。すぐに死なれてもな、長旅で弱ったんじゃろうと言っておけば「おお、やはり地球産はデリケートで飼育が難しいな」くらいで納得してくれる。むしろ商品価値は高くなるのじゃはははははははははははははははははははははははは。

 いやいや老い先短い年寄りだけを相手に商売しているわけではないぞ。血気盛んな若者連中にはな、射撃の的用に、あっちこっちの星から野鳥や齧歯類を調達してくるのじゃ。これもまた、さっさと撃ち殺されてくれなければ話にならんので、出荷前にあらかじめ風切り羽を何本か抜いておいたり、目をつぶしたり、手足をひねっておいたりしておく。そうすれば鳥もネズミも常のようには動けなくなるから面白いくらいに狩ることができるのじゃ。一度でも生きて逃げ回る的を撃ち抜いたら最後、クレーやマネキンなどでは満足できなくなるらしゅうてな、それはもう確実に常連客となること請け合いなのじゃぞ。

 気分が悪そうじゃが悪酔いか? ははあ、そうか。なに、最初は辛くともすぐに慣れるものじゃ。なにせ人間、自分の命より大事なものは、さほど、ないからのう。慣れなければパンパンに膨らんで外を漂うだけの話じゃ。うひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ。

 そうそう。開発途上の惑星などは、つねに深刻な女性不足に悩んでおる。そのため女たちも商品として運ぶことがある。もちろん表向きは縁組じゃ。結婚コンサルタントなどと呼ばれて見合いや合コン、パーティーを主催したりするが、まあ売り物である女たちが、買い手である男たちに売られていく事実には変わりがない。気づかないのは当人たちばかりじゃろうな。

 そして、ここが肝心じゃが、やはり女たちにも、ちょっとした手を使う。大きな声では言えぬが、美容のためにいいと偽って特殊な薬物を摂取させるのじゃ。すなわち中毒症状が表面に出ず、ある日とつぜん、しごく自然に心臓が止まるという非常に便利なスグレものがあってな、ちょっとやそっとの検死では分析もできないシロモノじゃから、多少は不自然でも突然死症候群で片付けられてしまう。しかも女たちは、それをほんとうに美容にいいと思って買い求めてくれるのじゃから、ありがたいというか頭が悪いというか、まあどっちでもいいことじゃがな。

 ん? やっとのことで妻を持った男が可哀想じゃと? なに心配はいらん。妻となった女を短期間で喪った男たちもな、じきに悲しみから立ち直って、また新しい伴侶を求めるものなのじゃ。やはり男にとって女房と畳は新しい方がいいからのう。

 そうそう。忘れちゃいけないのが子供たちじゃな。人間の子供も商品価値の高い積み荷になるのじゃ。子供のいない夫婦のために養子を斡旋して縁組をするというものなんじゃが、手数料と称して莫大な代金をふっかける。しかし、こればっかりは養父母たちにも養子自身からも心から感謝され、利鞘ともに実入りのいい商売になる。そりゃもう笑いが止まらんぞ。

 さらに何がいいといってな、どこの惑星にも貧困はなはだしいスラムは存在するし、産み捨てられる子供も山ほどおる。仕入れには事欠かないし、買い叩くのも叩き放題。子供たちにしたって、ただ産み落とすだけの親より手厚く育ててくれる親の手元に引き取られていくほうが幸福じゃとは思わんか? なに? たまには善いこともするのかじゃと? あたりまえじゃ。でないと夢見が悪いのでな。わはははははははははははははははははははははははははははははははははははは。

 さて。そろそろ仕事の時間じゃ。わしは子供たちの部屋へ食事を持っていってやるから、あんたは水槽の部屋へ行って金魚を追い回しておいてくれ。いい運動になるじゃろ。旅は長いからな。自分の健康管理は自分でやったほうがよいぞ。船医はおるにはおるが、あれは生きた人間にとってはヤブじゃ。

 あ? この番号札か? これはな、里親が育てる用、肉体奉仕をさせる用、肉や内臓を使う用と、用途別で食事内容が、いちいち違うから、間違えないように区別しておるのじゃ。教育や待遇などもそれぞれに違うし器具を使ったりすることもあるので面倒なんじゃが、そのぶん余禄もあるからのう。

 まあ何にしても商売は売り手だけで成り立ってはおらん。買い手がおるからこそ売り手も成り立つわけじゃ。わしらは売るだけ。撃ち殺したり、あっちこっちに穴をあけて、いろんな物を出し入れしたり、食ったりはせんから罪のないもんじゃ。うけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけ。

 おお、そうじゃ。あんたも、このさい、どれかひとつ買ってみてはどうじゃね? 仲間なら格安で卸してもらえるぞ。仲間ならのう。いひひひひひひひひひひひひひひひひひひ。

 

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