たがいに百戦錬磨(なんの? なんて聞かないように)の斎藤さんと剣心が、

はじめて新枕(にいまくら…ってこれこれ笑っちゃいけません)を交わした夜という設定です。

ああ、ウチの斎藤さんってば情けない…。でもソコが好きなの。


深長夜話(しんちょうやわ)

 

「あ……っ、いや、だ……」

 ふいに怯えた表情を見せて剣心は身をよじった。それまでの床慣れした悩ましげな媚態が一瞬で消え去り、生娘よろしく腕をつっぱって斎藤の下から逃れようとする。

「さいと……、も、やめ……」

「なんだ。痛いのか」

「……ちが……う」

「辛いのか」

 なよなよと首をふる。辛いのでもないらしい。

 奇妙な様子ではあったが、痛いのでも辛いのでもなければ遠慮することはない。斎藤はかかえあげた剣心の両足をさらに深く折り曲げ、膝がしらが胸につく姿勢をとらせた。

「い、いや……」

 躰をふたつに折り曲げられ身動きのできない体勢で、なおも剣心は懸命に身をずり上げ逃げようとした。

「こら。逃げるな」

 浮き上がった腰を引き戻してつよく抱き込んだ。なかばまで打ち込んでいた欲望を小刻みに抽送しながら沈めていく。

「あ、あっ」

 最奥に達した瞬間、彼は苦悶のときのような皺を眉間に刻んで四肢を激しく波打たせた。全身に走ったわななきが蠢動(しゅんどう)となって斎藤を押し包む。

「う、……動かないで……くれ」

 まなじりに涙をにじませて彼はうめいた。ふだんの飄々(ひょうひょう)とした姿からは思いもよらないか弱げな風情だった。

 疑問を感じるより先に嗜虐的な熱情にかられ、激しく深みを穿(うが)つ。抜き挿しするたびに切なげな声があがり、そらされた喉が夜目にも皙(しろ)く光る。切れぎれにこぼれる声音は甘く、愉悦の色をおびていた。

「いいか」

「んん……っ、い、い、……あっ、ああ……っ」

 華やかな嬌声が心地よく耳朶を打つ。高まるあえぎにつれて最奥に細かい波立ちが走る。剣心の反応にあわせて高まっていた斎藤は、ふと彼がもらした甘いつぶやきを聞きつけた。

「こんな……、深い……、あっ」

 ─────ふかい……?

 つかの間、その言葉に相当する文字がつぎつぎと脳裡をよぎった。ついでそれが、どうやら『深い』という意味であるらしいことに気づいた。つまり彼がいままでに情を交わした相手の中で、自分ほど深みに達した者は他にいなかった、ということなのだろう。ある意味、初めての男になるわけだ。

 馬鹿らしいとは思いつつ斎藤は得意な気分だった。

 深みにはまったのは自分のほうかもしれないと、ちらりと思った。


 

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