武器密輸組織を追う敏腕刑事が組織おかかえのヒットマンと出会う。

ところが彼は、じつは特別捜査官として組織に潜入している裏刑事だった。

チョウ・ユンファ、トニー・レオン主演の香港ノアール『ハード・ボイルド』

このムービー、まんま斎×剣なんですよ〜。

とくに長身なユンさまと小柄なレオンが同時に銃をつきつけあうシーン。

あれはもう…フォーリンラヴに相違ナイのだ。

で、その設定を借りてできちゃったのが、このエピソード。

いつか完成させたいと思っています。


ハード・ボイルド

 

 斎藤は出入り口を背にして立ち、うすぐらいキャビンの内部を眺めまわした。外見からは狭そうに見えても、船室は割りに広い。壁面をぐるりと『コの字』に囲むようにソファが備えつけてあり、天井からは、とりどりの色紙で折られた無数の折鶴が吊り下げられていた。

「豪勢なものだ。ヨット住まいとはな」

 小柄な男をにらみつけたまま斎藤は言った。無理やりソファへと座らされた男は、しかし銃をつきつけられているにもかかわらず、泰然としていた。口もとには薄い笑みさえ浮かべている。癇に障る薄笑いだった。

「どうした。この前のことを根にもって、仕返しにきたのか」

 斎藤を見上げ、恐れる様子もなく言う。

「おまえが本物の極道だったら、そうするところだが、よりにもよって刑事だったとはな。それで階級は何だ? 隊長か? 敬礼でもしようか」

「好きに思えばいいさ。よく、おれのことを調べられたな」

「蛇の道は蛇、でね」

 斎藤は銃口を上げ、男の顔をまじまじと眺めた。赤味のかかった髪。細くとがった顎。その端整にととのった容貌には、やはり見覚えがあった。

「ご同業か、道理で見覚えがあったわけだ」

「それで、どうする。握手でもするか? 銃で脅せば、どこでも握るぜ」

「悪いが、そんな趣味はない」

「女と違わないさ。それとも怖いのか」

 男はあいまいな笑みを浮かべながら、上目遣いに斎藤を見上げている。けれど、その眼は挑戦的な輝きをおびていた。

 とりあえず売られた喧嘩は買う、というのが斎藤の身上だった。そうでなくても、この男には煮え湯を呑まされつづけている。しかし、彼の正体が『刑事』であるとわかったからには、溜飲を下げる機会は、ないに等しいだろう。仕事の上では、だ。

 ───── 泣かせてみるのも悪くないな。

 それも、ひとつの報復手段ではあるだろう。






 薄暗いキャビンを、ゆるやかに寄せる波音と抑えられた喘ぎが満たしている。薄明かりの中に浮かぶ男の皙(しろ)い肢体が、しなやかな獣のように柔軟に撓(たわ)む。

 ソファに腰掛けた斎藤は、自分の膝の上で身を揉む男の顔を見ていた。たしかに彼が言った通り女と違わない、いや、それ以上に悩ましく妖しい嬌態だった。

 ふいに脳裡を黒い感情がよぎる。

 ───── 縁にも、こうやって抱かれているのか。

 任務で潜入しているとはいえ、彼が暴力団組織のお抱えヒットマンであり、ボスの雪代縁の情夫であることに変わりはない。だが、ふしぎに嫌悪よりも、嫉妬のような苛立たしさが先に立った。どす黒い感情に押されて、男の躰に巻かれた繃帯をまさぐり、傷口と思えるあたりをつよく掴む。

「あっ…ああっ、くぅ…」

 剣心の背筋が反り返り、繋がった箇所がきつく締まる。

「縁にも抱かれているんだろう」

「く…っ、あ、あ」

「あいつの上でも、こんなふうに悦がっているのか。……こたえろ」

「い…、言うな…」

 全身に細かい波立ちを走らせて彼は喘いだ。

「好きで…抱かれてるんじゃ…ない」

「そうだろうさ。だれにでも、そう言うんだろう」

「…ちがう」

 彼は激しくかぶりをふった。緋い髪が薄明かりを弾いて光る。

 ───── 見えすいた『くどき文句』を使いやがって。

苛立たしさに、斎藤は脇腹を掴んだ手に力を加え、さらに深く指を立てた。男は躰をこわばらせ、小さく悲鳴を上げながら、斎藤の手を掴んだ。しかし傷をさいなむ斎藤の手を、そこからもぎ放そうとはしなかった。

「ちがう…、あんたとは、ちがう。昔から、まだ…ペーペーの新米警官だった頃から…あんたに憧れてた。あんたになら…なにをされても、いい…っ」

「なんだと…?」

 虚をつかれ、一瞬、斎藤は呆然とした。ついで退こうとした手を、今度は剣心の手が押しとどめた。指先には熱気がわだかまっている。彼は斎藤の手を、そのまま自身の下肢へと導き、切なげな吐息をこぼした。

 甘やかな喘ぎに誘われて下肢を探る。愛撫に応えて最奥が細かく蠢動し、斎藤をさらに深みへと引き込んでいく。

「あぁ…いい、も…っと」

 快楽に酔った男の眼は、壮絶な色香をおびていた。見つめられているだけで昇りつめてしまいそうな愉悦が湧き起こり、斎藤の背筋を駆け抜けていく。

 湧き起こった衝動にまかせて、斎藤は剣心の細い躰を抱きしめた。むさぼるように交わした口づけの果てに深い悦楽が襲い、ふたりはともに遂情(ちくじょう)した。


 

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