誰でも一度は思いつく『ちゅうネタ』です。
密着度は高いですが『寸止め』です。
ま、そーゆーのは、そーゆーのとして、そのうちに。
デキちゃうのも楽しいんですが、
ニアなのも、なんだかドキドキします。
夢で会えたら
最近、虎徹がバーナビーの家に、よく泊まりに来る。一度、市長のベビーとドラゴンキッドとの宿泊を許したことがあるが、あれ以来、なしくずしに泊まりに来るようになった。最初は貰い物で埋まっていたサイドボードの酒を呑むのが目当てだと思っていたのだが、最近になって、どうも、それだけではないことが分かってきた。この男、異常に寂しがり屋だったのだ。 不思議な人物である。ヒーローとしては十年選手。ベテランではあるが、ベテランらしくない暑苦しさもある。考えもなく無鉄砲に突っ込んでいくだけかと思えば、意外に冷静で老獪なところもあったりする。賠償金額のランクだけはトップクラスで、それ以外には、取り立てて秀でているところもない。 けれど、彼の出動がないと、なぜかヒーロー全員の意気が上がらない。とくにリーダーシップを取るわけでもないのに、ムードメーカーというのか、なんとなく、いないと物足りと思わせる。単純なようでいて、じつは、したたかで掴みどころがなかったりするのだ。 今日も彼は、仕事の終わり頃に、落ち着かない様子だった。「うちに寄りますか?」と声をかけると、嬉しそうに笑う。 「じゃあ、おれ料理するわ。バニちゃん、何が食べたい?」 「バニちゃんじゃなく、バーナビーです」 「うん、そうそう、バーナビー」 「そうですね、何でもいいです」 「そーゆーの、いちばん作り甲斐がないのよ。うーん、じゃあ、今日は『虎徹特製エネルギーライス』にしよう」 「なんですか? それ」 「見てのお楽しみ」 オフィスから家へ帰る前に、マーケットへ立ち寄った。バーナビーは、ほとんど自炊をしないが、虎徹は自炊派で、バーナビーの家に来るときには、たいがい食材を買ってくる。ひょいひょいと簡単そうに、けれど、けっこう手の込んだ料理を作る様子は、眺めているバーナビーに、まるで魔法のようだと思わせた。 帰宅すると、すぐに虎徹は食材を持ってキッチンへと姿を消した。じきに野菜を刻む音や、フライパンで何かを炒める音が聞こえてきた。甘く芳ばしい匂いも流れてくる。 しばらくはパソコンのメールをチェックしたり、テレビのニュースをぼんやり観たりしていたが、リビングで一人待つのも手持ち無沙汰で、バーナビーは立ち上がった。キッチンへと向かい、そこに立つ虎徹の後ろ姿を黙って眺める。 自分の家に、それもキッチンに、他人がいるという事実。 認めるのは癪だったが、ちょっと楽しかったりする。 少し前の自分には想像もつかないことだった。 後ろから見る虎徹は、首筋から背中、そして腰にかけてのラインが鋭利に美しい。姿勢がいいからなのだろう。日ごろトレーニングを怠け気味とはいえ、長年にわたって鍛え上げられ、引き絞られた身体は、見事なバランスをこの男に与えている。そういえば若い頃には、デザイナーズ・ブランドのモデルとして使われた事もあったと聞いた。頭が小さく、手脚が長い。体形的にはモデル向きなのだ。胸当て付きのエプロンをかけた姿でさえ、野暮ったくはなく、洗練されていてスマートだった。 視線を感じたのか、ふいに虎徹は振り向いた。 「ん? どうかした?」 「……なにか手伝いましょうか」 「あ、うん、じゃあ、飲み物だけ持ってって。もうすぐだから。すぐ持ってくから、そっちで待ってて」 やさしく笑いながら言う。 本人は『兄貴』を気取っているつもりかもしれないが、彼の世話の焼き方は、どちらかというと『お母さん』に近い。早くに妻を亡くしたそうだから、残された娘を育てるために、そんな気質になってしまったのかもしれない。 ミネラルウォーターのボトルを持って、リビングに戻り、おとなしく待っていると、両手に二人分のディナー・プレートを持った虎徹がやってきた。バーナビーにプレートのひとつを手渡し、床に座り込む。 プレートに乗っていたのは、サラダと、カップに入ったスープと、何のことはないオムライスだった。チキンライスを包んだ黄色い薄焼き卵の上に、赤いケチャップで『エネルギー』と文字が書いてある。虎徹のほうのオムライスには『ファイト!』と書いてあった。 「なんだ。字が書いてあるだけなんですね」 「あ、バーナビーくーん。そーゆーコトは、自分でオムライスに字を書いてから言いなさーい。難しいのよコレ。集中しないと、字じゃなくて模様になっちゃうんだから」 言いながら彼は、スプーンでオムライスを崩し、口に運んだ。バーナビーも彼に倣って食べてみる。特別おいしいというわけではないが、飽きない味だと思う。彼の料理は、食べたことがないものでも、なぜか懐かしい味がするのだ。 「美味しいです」 「そぉ?」 嬉しそうに彼は笑った。 食事が終わって、バスも使って、くつろいで酒を飲んで談笑しているうちに、虎徹は舟をこぎ始めた。酔うほどは飲んでないと思うのだが、疲れていたのかもしれない。床に寝転がってしまった虎徹を、バーナビーは軽く揺すった。 「おじさん、寝るのなら、ゲストルームで寝てください」 「うん、うん、分かった」 分かってない。くたり、とした身体は、動こうとしない。 「動くのが嫌なら、せめてソファにでも行って寝てください。邪魔です」 「うーん、起こして」 仕方のない人だと思いながら、腕を取って肩を貸し、立たせようとした。 「ほら、起きて。起きないとキスしますよ」 ぜったいに嫌がって起きるだろうと思ったのだ。 ところが。 「……なに? ちゅうしたいの?」 彼は、ふいにパッチリと目を開けて、言った。 「いいよ、しよう」 言いながら彼は、バーナビーの眼鏡に手を伸ばした。驚きで硬直したバーナビーの顔から器用に眼鏡を外すと、そっと床に置く。その間も、彼の目はバーナビーを捕らえたままだ。 ただし目の焦点が微妙に合っていない。琥珀色の目が潤んでいる。目元が、ほんのり赤い。口調も、心なしか舌足らずだった。きっと寝ぼけているのだろう。 そうは思いながらも、好奇心の方が勝ってしまった。じつはバーナビーは、他人と、こんなふうに触れ合った経験がなかった。自分の容姿や条件が、いろんな意味で人を引き寄せることは、頭では理解していた。けれど今まで、両親の仇を討つこと以外に、何の興味も持てず、そういうことに縁がなくても不便を感じたこともなかったのだ。 バーナビーは虎徹の唇に、自分の唇を触れ合わせた。 しっとりとしていて、ふわふわと柔らかくて、そして温かい。意外だった。こんなに気持ちのいいものとは思ってなかった。初めて知る感触に感激と感動を覚える。 何度か角度を変え、軽く啄ばんで、柔らかさを味わう。虎徹の舌がバーナビーの唇をするっと舐めた。一瞬、おどろいて身を退きかけると、虎徹が小さく笑う。 経験のなさを笑われた気がして、負けん気に火がついた。もういちど唇を重ねると、また虎徹の舌が忍び込んでくる。こんどはバーナビーも逃げなかった。 当たり前のことなのだが、舌は濡れていて、温かかった。かすかに酒の香が匂う。それは歯列をなぞり、口蓋をたどって、緊張に固まっていたバーナビーの舌に、誘うように触れてきた。誘われて彼の口内に舌を差し入れると、唇に軽く食まれ、やわらかく吸われて、背筋に痺れるような、さざなみが立つ。 虎徹が唇を離して息をついた。それで自分が息をつめていたことに、やっと気づく。 なんだ、キスの最中にも息をしていいんだ。 妙なところで納得した。バーナビーの物慣れない様子が、おかしかったのか、彼は、くすくす笑った。 笑われても、もう腹は立たなかった。なんだか可愛い、と思う。 虎徹の手がバーナビーの髪を撫でる。髪に差し込まれた指先が熱い。背中にすがった手に、ぎゅっと抱きしめられると、彼の吐息が甘く耳をくすぐった。 バーナビーの鼓動が跳ね上がった。まるで恋をしているみたいにドキドキする。相手は『おじさん』なのに。 自分も腕を回して彼の身体を抱きしめた。紙一枚も割り込めないほど二人の身体は密着し、おたがいの鼓動が響きあう。 とうとつに、バーナビーの背中を抱いていた手が、ぱたりと床に落ちた。 「虎徹…さん?」 彼は眠っていた。 えええええっと心の中で絶叫する。 なやましい目つきで誘って。 愛しい者にするみたいに髪を撫でて。 恋人にするようなキスをして。 艶めいた吐息を耳に吹きかけて。 盛り上げるだけ盛り上げておきながら爆睡してしまうなんて。 ───── こんなのって反則だ。 この燃える想いをどうしてくれよう。 とはいえ、眠っている者に無体を働くわけにもいかないし、だいたい無体を働こうにもノウハウが分からないので、とりあえず客用のダウンケットを取って戻り、虎徹の体に掛けた。 ───── あー、襲いたい。 虎徹の寝顔を見ているうちに、バーナビーも眠ってしまった。 |