pixivから転載しました。

月虎です。

そうは見えないかもしれませんが月虎です。

そーゆーシーンも、ありませんが月虎です。心は。

ま、ソレは、ソレとして、そのうちに。

ところでユーリって何歳なんだろう?

そもそも虎って何歳なの?


LIKE A PRAYER  1

 



 ユーリ・ペトロフはシルバーステージ・メダイユ地区の中央病院にいた。母親の錯乱が進んだ上に、急に体調が悪くなり、緊急入院したためだった。

 病室の外の廊下にぼんやり立っていると、とつぜん後ろからポンと肩を叩かれた。驚きと共に振り向くと、そこには鏑木虎徹が立っていた。

「管理官、こんちは。鏑木です」

「……ああ、鏑木さん」

「こんなとこで会うなんて奇遇っスね。俺、知り合いが入院したんで見舞いに来たんですが、管理官も、どなたかお見舞いですか?」

 彼は屈託のない笑顔で明るく言った。アイパッチのない素顔を見るのは珍しい。

「ええ……」

 当たり障りのない返答をするつもりで口を開きかけた時、病室からの怒声が、それを遮った。

「ユーリ! おまえがあの人を殺したのよ! おまえなんか生まなければよかった! この人殺し!」

 彼女は激しく咳き込みながら、押さえ付けようとする看護師らに毒づいていた。

 体か硬直する。傍らに立つ虎徹にも聞かれただろう。彼の顔色も一瞬で変わった。

 ところが彼は、ふいに、裏返ったような間抜けた声を上げた。

「あー、そういや喉乾きませんか管理官。俺、飲み物買ってきますよ。何がいいスか」

「鏑木さん」

 おそらく聞かなかった事にするという意思表示なのだろう。瞬時に虎徹の気遣いを見抜いたユーリは、思わず彼を呼び止めていた。





「母なんです。もう何年も錯乱したままで……」

 数分後、二人は病院の待合室にいた。自販機とソファーの並ぶ待合室には、ほかに利用者はいなかった。

 ソファーに掛けたユーリは、虎徹の差し出す缶紅茶を受け取りながら、彼の顔を盗み見た。中途半端に知られるよりは、ある程度の事情を話したほうが、かえって口止めがしやすいだろうと考えたのだ。職業柄、口の軽い男ではないと思うが、念には念を入れなければ気が済まない。

「父が早くに亡くなったのですが、母は父の死を認められないんです。それからずっと、あんな調子で……」

 虎徹は立ったまま、自分のコーヒーのプルトップを開け、口をつけると、小さくため息をついた。

「管理官」

「ユーリと呼んでください、鏑木さん」

 どこに人の目や耳があるか分からない。できるだけ個人的な情報を漏らしたくなかった。

「じゃあ、ユーリさん」

 彼は琥珀色の瞳をユーリに向けた。

「……つらいですね」

「ええ、いいえ、もう慣れていますので」

 同情されるのは、まっぴらだった。そういった感情には怒りさえ覚える。

 虎徹は真っすぐな視線でユーリを見ていた。

「お母さんは病気なんスよ、ユーリさん。きっと、お母さんの本心じゃない」

 かっと頬に朱が上る。

 ユーリは立ち上がり、虎徹の胸ぐらを掴んで壁に押しつけた。虎徹の目が驚きに見開かれ、彼の手から缶コーヒーが鈍い音を立てて転がり落ちた。

「あなたには分からない! わたしの気持ちなんて誰にも……」

 この長い長い苦悩の日々を、さも知ったふうに『病気』の一言で片付けられてたまるか。

 激情のあまり腕を振り上げた。だが虎徹に向かって腕を振り下ろす前に、ユーリの意識は暗転した。



 

 

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