pixivから転載しました。
月虎です。
そうは見えないかもしれませんが月虎です。
そーゆーシーンも、ありませんが月虎です。心は。
ま、ソレは、ソレとして、そのうちに。
ところでユーリって何歳なんだろう?
そもそも虎って何歳なの?
LIKE A PRAYER 2
ふと気が付くと、ユーリは見覚えのない病室のベッドに寝かされていた。横を見ると、パイプ椅子に虎徹が座り、手にした雑誌を読んでいた。 ユーリが目醒めたことに気付くと、虎徹は雑誌を置いて、ユーリに向かって微笑んだ。 「目が醒めました?」 「ここは?」 「空いている病室を借りたんです。ユーリさん、疲労と貧血だそうですよ。ちゃんとご飯食べて眠ってますか?」 言われてみれば、ここ数日は仕事と、母の具合の悪さに振り回されて、しばらくまともに寝食を取っていない。 「はい、これ」 「これは?」 手渡されたのは院内のカフェで売っているプリンだった。 「疲れた時とか、病気の時には、こーゆーのが、けっこういいんです。娘が風邪を引いた時とかに、よく食べたがりました」 彼に妻子がいたことをユーリは思い出した。 食欲はなかったが、蓋を開け、プラスティックのスプーンですくって、口に運んでみる。ふわり、とやさしい味が口の中に広がって、冷えていた胃が温かくなってくるような気がした。 気分が落ち着いてくると、さきほどの自分の行動が恥ずかしくなった。虎徹に暴力をふるおうとした。あれほど父の暴力を憎んだ筈なのに。胃がキュッと痛み、吐き気が襲ってくる。 「気分、悪いですか?」 ユーリの様子に気づいたのか、虎徹はユーリを覗き込んだ。動きの止まった手からプリンとスプーンを取って、脇のテーブルに置き、ユーリの背中を撫でてくれる。 「食べ物じゃない方がよかったですかね。点滴を頼みましょうか?」 「いいえ……大丈夫です。お手数をおかけして済みません」 「いやぁ、大した事してないっスよ。お気になさらず」 「やさしいですね、あなたは。きっと娘さんにも、いいパパなんでしょうね」 「いえ……俺なんて全然。ただ愛してるってだけで、他のことは全部ほったらかしで」 彼は照れたように笑いながら頭を掻いた。 その照れ笑いを見てユーリは、自分の孤独を思い知った。 彼は、どんな苦境にも自分の身を省みずに飛び込んでいくヒーローだ。それだけの強さで娘を、他人をも愛している。自分はどうだ。それだけの激しさで人を愛したことがあったのか。あるわけがない。親にさえ疎まれたのだ。誰にも愛されず、誰も愛せないで、たった一人で生きてきた。自分のために、こんな照れ笑いを浮かべる誰をもユーリは持っていないのだ。 息が止まるほどの悲しみにユーリは胸を掴まれた。それは絶望に近かった。気がつくとユーリは手で顔を覆って涙をこぼしていた。 「ユーリさん」 虎徹の手がユーリの頬に触れ、うつむいていた顔を持ち上げた。 琥珀の瞳と見つめ合う形になる。 何年も寝かせた蜂蜜のような金茶色の瞳。 彼は指の瀬でユーリの涙を払うと、手のひらで額に触れてきた。 ユーリの額を虎徹の手のひらが覆う。父に焼かれた痕があるところだった。 その手の甲に虎徹は唇を押し当ててきた。何度か音を立ててキスをすると、彼の手のひらは外された。 「女房が生きてた時にね、怪我をすると、手当てした後に、包帯の上から、こんなふうに手を当てて、手のひらごしにキスしてくれてたんです。痛いのが治るみたいな気がしてました」 激昂すると浮かび上がる痣を虎徹は見たのだろう。その意味を知らなくても痛みを感じたのだろう。 ああ、そうだ。 彼は妻を『病気』で喪っていた。けっして軽い気持ちで言われた言葉ではなかったのだ。 「あ、すみません。野郎にされたんじゃ気持ち悪いですよね」 「いえ……できれば、もう一度……」 ユーリの言葉に、虎徹は再びユーリの額に手のひらで触れた。手のひらの温かさが染み入るようで、また涙があふれてくる。 何度か手のひらごしにキスをされたあと、いつの間にか虎徹の手はユーリの額から外れて、両手のひらで包み込むようにユーリの頬を抱いていた。 「ユーリ?」 彼の唇が、直接額に、閉じた目蓋に、そして頬に触れていく。 「ユーリ」 何度も名前を呼ばれて、ただ触れるだけのキスを受ける。 それなのに、欠けていた何かが満ちていく。 涙が止まらない。けれど悲しみの涙ではなかった。 「ユーリ」 虎徹はユーリの名前を呼びながら、泣き続けるユーリを抱き締めてくれた。自分の名を呼ぶ彼の声を、まるで祈りの声のようだと思う。 虎徹の胸にすがって泣きながら、ユーリは初めて自分の孤独が癒されていくのを感じた。 |